しつけ


 私は山梨の農家の息子ですから、育ちはあまり良くありません。良くないながらも父には厳しく育てられました。

  一番の思い出は、小学生時代から畑仕事をよく手伝わされたことです。手伝ったのではありません。手伝わされたのです。

 はっきり言って、私にとっての農業は辛いばかりで楽しい思い出はほぼありません。しかしそれを経験しただけに、その辛い仕事を毎日やっている両親には感謝の気持ちはいつもありました。両親の背中からは、仕事で楽をしないこと、汗を流すことが美徳だと教わりました。

 育ちといえば、いちばんは食事に表れます。私はある日の夕飯時、父に烈火のごとく怒られたことも忘れられません。

 私は“寄せ箸”をやったのです。寄せ箸というのは、食卓の器を箸の先で手前に引寄せる行為です。皆さんはやらないと思いますが、多くの大人が自覚なくやっています。

 お陰で、一人で食事する時にも、寄せ箸は絶対にやりません。死ぬまですることはないと思います。

 もうひとつ、火が出るほど怒られたことを思い出しました。自宅にいらしたお客さんにきちんと挨拶が出来なかった時です。これも小学生の頃です。

 我が家では怒られると、決まってお仕置きがありました。正座をさせられるのです。ただの正座ではありません。膝の下に算盤を敷かされるのです。今なら児童虐待と言われるところです。

 食事や挨拶は家庭の躾が出てしまうところです。きちんと出来なければ、家庭の躾が悪かったと思われてしまいます。これはほぼ当たっています。

 今になれば、何もあんなに怒らなくてもよかったろうにと思いますが、その積み重ねが今の自分を形成しています。

「人の役に立つ人間になりなさい」「正々堂々とやりなさい」と言われて育った子供と、「自分だけ損をするなよ」「お前が一人で苦労するな」「給料分だけ働けばいい」と育てられるのでは大違いです。基本的な価値観が恐ろしいほど違うのですから。

 家庭環境、育った環境は本当に大切です。身体の芯に沁み込んだ行動の習慣、思考の習慣は簡単に変えられません。親の責任って重大ですね。