無理なお客

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 以前、わたしが利用していた床屋は、わたしが行きたい週末は混んでいたため、なんとか予約は出来ないものかと聞いたところ、それは無理とのことでした。十数年間通い慣れた床屋でしたが、そのころのわたしは床屋で2時間待てるほど時間に余裕がなかったので自然と足が遠退いてしまいました。

 サービスを提供する側からすると、目の前のお客様は数多い顧客のひとりに過ぎなくても、お客様自身はいま受けているサービス対応が相手を評価するすべてになるのです。お客様のご都合は千差万別であり、当社の都合などまったく気にもとめてくれません。あなたの会社は、既にターゲッティングにより顧客を絞り込んでいるのですから、その絞り込んだお客様の要求をさらに合理化しようなどとは思わずに、できる限り要求に応えることが大切なのです。

 このごろは、社員に気持ちよく働いてもらうことをモットーにしている経営者が多くなりました。『社員満足なくして顧客満足はない』とも言います。しかし、思い違いをなさってはいけません。何にも優先すべきはお客様の都合であって、社員の都合ではないということです。顧客満足がなければ社員満足もまたないのです。

 社員の中には放っておくと当社の都合を優先して対応してしまいがちな者もいます。それは会社を思ってのことかもしれませんし、面倒なことを避けたいだけなのかもしれません。どちらにしてもこちらの業務の流れが悪くならないようにお客様の要求を無視してしまう社員はどこの会社にもいるものです。お客様の無理な要求に対するお断りの判断は慎重に行わなくてはいけませんから、経営者は注意して見ていなければなりません。

 確かに無理難題を持ちかけてくるお客様もいらっしゃいますから、すべてをお客様に合わせることは現実的ではないかもしれません。例えそうだとしても、はじめからこちらの都合で対応するのではなくて、お客様から何らかの要求が出ているという事実を受け止めることが大切なのです。お客様の無理と思える要求の中にも、案外教えられることが多いものなのですから。

 経営者は、時には担当者が出来ないと言っていることも無理を承知でやらせなくてはならないことがあります。顧客あっての社員の待遇であり、和やかさであり、社内の人間関係なのです。企業経営はすべてに顧客を優先すべきですから、この順番を間違えてはいけないのです。

 先日、くだんの床屋に何年かぶりに行ってみたらずいぶん暇になっていて、聞くといまは予約制を取り入れたとのことでした。しかし、勢いがなくなってからの打つ手では効果が表われにくいものなのです。