倍増計画

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 4年ほど前のことです。わたしは社員を前に「これから5年間で事務所の規模を2倍にします」と宣言しました。それまで15年間かけてやってきたことを5年で倍ですから、これはわたしにとってもちょっとしたチャレンジです。

 当時のわたしは開業後15年を経過し45歳を目前にして、このままあと15年が経ち60歳を迎えたときに振り返ってみて、果たして納得できるのだろうかと思っていた時でした。また、事務所の規模も生活もマズマズの水準に終わり、たいした達成感もないまま年老いていくことに、ストレスというよりは少し恐怖感さえ感じるようになっていた時期でもあります。

   しかし、いざ宣言してみた時に社内の反応はどうだったかといいますと、見事に全社員がうつむいてしまいました。「やりましょう」とか「わたしも頑張ります」なんて積極的な声が上がるとは思ってはいませんでしたが、これほど全員が揃って同じ角度でうつむくとも思っていませんでしたから、わたしにとってショックでもありまた気付きでもありました。

 社員にしてみると「これからなにが始まるのだろう」とか「大石は俺たちに何をさせようとしているのだろう」という思いになったのかもしれません。しかし、わたしは仕事が倍になれば社員も倍に増やしますし、営業ノルマを課すつもりもありません。むしろ社員にとってマイナスになることは何ひとつないと確信していました。

 宣言を前に冷静に考えると、大風呂敷を広げたのはいいが何も変わらなかったらどうしようといった小さなプレッシャーが襲ってきます。それでもその時のわたしは、冷静になって将来を憂うよりも将来を肯定的にイメージするワクワク感が勝っていましたから、強い気持ちで宣言することができました。

 そもそも、若い社員が先輩社員を見て「あんな先輩のようになりたい」と10年後のイメージができないような会社には夢も希望もありません。また、先輩社員も憧れや尊敬の念で後輩に慕われるような会社でなくては、わたしが若い社員だとしても永く勤めたいとは思えません。そのためにも経営者の前向きな姿勢と会社の拡大成長は欠かせないのです。

 宣言をすると不思議なものです。宣言の後は特別な営業活動をしていないにもかかわらず、クライアント数がこれまでの何倍もの勢いで増加するようになったのですから、言ったわたしが一番驚いてしまいました。こんなわたし自身の経験からも、経営者のみなさまには将来のありたい姿を肯定的にイメージし、それを文字や数値化したものを社内外に宣言をしてもらいたいのです。

 仮に数値目標を達成できなかったとしてもいいではありませんか。大石会計も過去3年間で目標値を達成した年は一度もありません。数値の達成ができなくても、目標に向けて社内が前進することにも大きな意義があるのです。