尽きない欲

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 欲は尽きぬものと言います。たしかに、私たちは生きるために必要な限度をはるかに超えて多くのものを求めてしまいがちです。感謝の気持ちが足りないと言えばそれまでですが、どうも人というのはそういうものなのかもしれません。

 わが子が生まれたときのことを思い出すと、ただただ無事健康に生まれて欲しい、それのみを願ったものでした。「可愛い子に生まれて欲しい」とか「頭のいい子に生まれて欲しい」など考えもしませんでした。しかし健康に生まれてくれたら、次はハイハイ、歩行、おしゃべり、勉強にスポーツと、次から次へと要求は高まります。

 先の大地震にしても、当初はそれこそ命があるだけで、家族が無事にいてくれるだけでもありがたいと思ったものでした。しかし、平時に戻るとそのような環境は当たり前にしか思えなくなります。

 ひとつの欲求が満たされると次なる欲求が生まれる。マズローが言うように、これは当たり前のことのようです。すべてを欲のままに生きることは褒められたことではありませんが、欲のないのもまた困りものです。修行僧ならともかく、無欲が美徳だとは、今の私には思えません。

 上手くいっている人ほど求める気持ちが強いものなのです。反対に欲求の低さは人を怠慢にさせてしまいます。もしも無欲のこどもに出会ったら、それこそ心配になってしまいます。

 もっと早く、もっと強く、もっと綺麗に、もっと賢く、もっと仲良く、もっと便利に、もっと安全に、もっと裕福に、私たちの祖先の欲が多かったからこそ人類は発展してきたのです。しかし、平和でなかったり、健康でなかったりしたら便利さも裕福さも求める気にもなりません。既に手に入れてしまったものや与えられた環境に対し、私自身も含め多くの人は、感謝が足りていません。

 こどもが生まれたときには、存在そのものが愛おしかったものです。それなのに、日ごろはそのありがたみを忘れてしまいがちです。いまあることには感謝しつつも、満足はせずに欲求水準を高めていきたいものです。