上司の人望

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 若き銀行員時代、多くの女性に囲まれて過ごした楽しい日々でした。今でも思い出すのは、人事異動があった時の女子行員の反応です。女子行員たちは転勤してくる上司を事前評価するのが常でした。どんな人が上司としてやって来るのかは、サラリーマンにとっては大きな関心事の一つですから、情報収集には自ずと熱が入ったものです。

 そんな女子行員たちから、“いい人”と評価された上司にはある共通点がありました。それはどなたも“優しい人”ばかりだったのです。しかし、実際に事前評価が高かった上司たちは、確かに優しいのですが人望を感じさせる人は少なかったような気がします。

『人望』を広辞苑で引くと「世間の多くの人々がその人に寄せる尊敬・信頼、また期待の心」と書いてあります。優しさだけでなく、人柄の良さ、誠実さ、公正さ、謙虚さ……。人望にはいったい何が必要なのでしょうか。

 ご近所のおじさんでしたら、人柄の良さが人望の厚さなのかもしれません。しかし、人の上に立つ者にとってはそのほかに責任が必要だと言われるのはメンタルトレーナーの西田文郎氏です。つまり、人望には責任を伴わない人望と責任を伴った人望とがあり、リーダーやトップに必要なのは責任を伴った人望なのです。

 どんなに人柄のいい上司でも、成果を出せないようではやる気のある部下からは信頼されません。明るく元気でも勝てない監督には価値はありません。その意味では、成果の出せない上司、勝てない監督には人望はないのです。

 上司は部下を管理するのが仕事だと間違った認識を持っている人がいます。上司の主たる仕事は、チームの生産性を上げて結果を残すことです。生産性さえ上げられるのなら管理などいりません。放任主義でもいいくらいです。

 人柄が良くて結果を残せる人こそがビジネスの世界では人望を称えられるのです。反対に、どんなに部下から慕われたところで、生産性が上がらずチーム目標を達成できないような上司に価値は認められないのです。

 優しいのは結構なことです。しかし、女子行員たちに評価されていた上司の多くはただただ優しいだけの人たちだったのです。他人に優しいけれども自分にも優しい人たちで、毒にもなりませんでしたが薬にも全くならない人たちでした。

“部下に優しい人=いい上司”、“部下に厳しい人=良くない上司”、女性から見たらそんな見方になりがちです。どうやら女性から好かれるには優しげに振る舞うことが大切なようです。