理想的な承継

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 顧問先様の株主総会に出席してきました。創業から約半世紀を生き抜いてきた産業用機器メーカーです。

 いまは約200名の社員が働く会社ですが、数十年の社歴は決して平坦なものではありませんでした。

 創業時には、工場ともいえない小屋で夫婦とわずかな社員で作業したといいます。当時小学生の長男は、通学路にあるその小屋の存在が恥ずかしく友達には言えなかったそうです。

 長男は父親の会社を継ぐ気もなく、大学卒業後は商社で働いていました。その商社で父親の会社の製品を目にすることになり、父の仕事を見直して転職してきたそうです。

 会社は今年、東京都下に立派な工場を建てました。1500坪の敷地にそびえ立つ工場を前に、これまでのご苦労を見てきた私は胸にこみ上げるものがありました。

 苦しい時には、「本当に苦しいんですよ」と言いながら、ガハハハッと笑い飛ばす会長は人間味ある魅力的な経営者です。社長時代の40年間に郷里の九州に工場を建て、海外に進出し、社員100名を超える会社に成長させました。

 リーマンショック後の最も厳しい時に社長を引き継いだ長男は、父の思いを受け止めて苦境を乗り越え見事に発展させました。入社時は経営のケの字も分からなかった長男でしたが、今では会長に負けない愛のある実力派の社長です。

 ともに眠れない時代を過ごした父子が、新社屋の前で見せた晴れやかな笑顔が私には印象的でした。

 会長に聞きました。「創業時に、今の姿がイメージできましたか」。会長は大きく首を横に振りました。

 目標が大切といいますが、数十年先の目標は明確にビジュアライズできません。少し先の3年後、5年後をイメージして一所懸命、くそ真面目に努力を重ねてきたのだと思います。学びの多い一日でした。